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東京高等裁判所 昭和39年(う)1718号 判決

被告人 S・Y(昭二〇・三・三一生)

主文

原判決を破棄する。

本件を東京家庭裁判所に移送する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用し、これに対し次のとおり判断する。

一、控訴趣意第一点について

論旨は原判決の事実誤認を主張し、被告人は時速三五粁の制限速度の定められている道路上では所定の速度で走行し、制限解除の道路に入り時速六〇粁を出した瞬間取調べられたもので、被告人は原判示の如き道路交通違反の所為に及んでいないというのであるが、被告人は、原審第四回公判において原判示日時場所において時速五五粁から六〇粁の速度で走つたことを認めておるのみならず、司法警察員に対する供述調書においては速度制限の道路標識には気がつかなかつた旨供述しておるのである。それに所論の主張は当審になつて始めてなされたもので、にわかに首肯し難いばかりでなく、原判決挙示の証拠によつて原判示事実は十分認めることができるから、論旨は到底採用することができない。

一、同第二点について

論旨は原判決は刑の量定が甚しく不当であるというのである。

よつて検討するに、被告人の本件所為は山梨県公安委員会が道路標識によつて定めた最高速度を著しく超過して第二種原動機付自転車を運転したもので極めて危険な所為であり法無視の甚しいものであるけれども、被告人はその後○○大学に入学し、一年在学中で反省の情顕著であること、前歴としては唯一つ昭和三五年九月二四日に道路交通取締法違反を犯したことがあるが、これは東京家庭裁判所で審判不開始になつておることなど諸般の事情を考慮すると本件事案としては、この際被告人を罰金刑に処するよりも家庭裁判所に移送してその措置に委ねるのが相当であると思料される。よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書、少年法第五五条により主文のとおり判決する。

検事 築信夫公判出席

(裁判長判事 新関勝芳 判事 中野次雄 判事 伊東正七郎)

別紙

控訴趣意書

被告人 S・Y

右の者に対する道路交通違反被告控訴事件について控訴人は右の通り控訴の趣旨を説明致します。

第一点事実誤認

原判決は判決に影響を及ぼすべき明らかなる事実の誤認があり、即ち被告人は昭三八年五月○日午前九時四〇分頃大月市○○町○○番地先路上を東京方面から大月市に向い第二種原動機付自転車を運行していましたがその道路の速度制限区域三五キロが解除された場所になつたのでスピードを増し六〇キロに達せんとした際突如交通取締官に呼びとめられました。白バイの言うには被告人が速度制限三五キロの所を七五キロで走行し、速度違反をしたということであり、且つ証人○辺○二は、そのとき被告人がそのことを承認したかの如き証言をしております。しかし被告人はかねて原審でも三五キロの制限道路上では制限範囲の三五キロで走行を続け制限解除の道路に入つたので、これから先きは六〇キロのスピードを出すも可なりと判断して六〇キロを出した瞬間の取り調でありました。被告人は事件場所にさしかかる町の入口迄は六〇キロの速度で走行し町の入口から前の制限が三五キロになる旨の標識を認めスピードを落し三五キロで町を通過し制限外になつたのであります。

然るに原審証人白バイ担当官渡辺平二は一年前のことであるからよく覚えていないけれどもと前置きしながら被告人が速度違反をしたという立証のため故意に具体的な証言をしております。被告人が真に速度違反を自認し承認し得るならば潔よくこれに服し原審判決の罰金五千円も速に支払います。右証人は被告人が事件当日違反の事実を認めたという趣旨の証言をしておりますけれど被告人が違反を認めたのであれば裁判をしてまで争いません。従つて当庁におかれて再度被告人並に原審証人白バイ担当官渡辺平二及制限解除になり停止を命ぜられ現場を御取り調べ下されたくお願いしますが、前に述べたように原審判決は信用できない右証人の証言を証拠として判決されましたがこれは事実の誤認であります。

依つて原判決は破棄されるべきであります。

第二点原判決は刑の量定が甚しく不当である。

仮りに原判決の事実の誤認がないとしても速度違反の事実は速度制限三五キロの所から六〇キロに入る瞬間の速度であるから制限区域内は違反状態を続けていないのに対して犯罪の動機場所危険度等遙かに軽いものといわなければならない。然るに原判決は右犯罪の方法態様等黙過して罰金五千円に処したのは刑の量定が甚しく不当である。

依つて原判決は破棄されるべきである。

昭和三九年九月一八日

右被告人 S・Y

東京高等裁判所

第十一刑事部御中

参考 一

原審判決(中野簡裁 昭三九・六・二六日判決)

主文

被告人を罰金六、〇〇〇円に処する。

理由

被告人は昭和三八年五月○日午前九時四〇分頃山梨県公安委員会が道路標識によつて最高速度を三五キロメートル毎時と定めた大月市○○町○○番地付近道路において右最高速度をこえる七四キロメートル毎時の速度で第二種原動機付自転車を運転したものである。

証拠の標目

一、証人渡辺平二の供述調書

一、司法警察員渡辺平二作成大月警察署長宛昭和三八年五月四日作成の交通違反被疑事件現認報告書、同報告書の被告人の供述調書

一、被告人の当公判廷における供述一部

法令の適用

道路交通法第六八条、第二二条第二項、第九条第二項、第一一八条第一項第三号、同法施行令第七条

山梨県公安委員会告示第一八条

罰金等臨時措置法第二条

少年法第五四条

参考 二

受移送家裁事件処理の経緯

昭四〇・一・二五 家裁事件受理(昭四〇(少)一〇二七四五号)

三・ 八 少年・保護者(父)面接調査

〃   少年に対し精神検査(知能検査、内田クレペリン精神作業検査、交通用性格検査、問診等を実施)

〃   審判(試験観察決定)

三・一一 家裁において講習受講

〃   決定(不処分)

参考3 交通事件少年調査票〈省略〉

参考4 精神検査結果報告書(集団)〈省略〉

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